2019年3月、日美は新しいブランドをリリースしました。
名前は『Knock on Wood』(ノックオンウッド)
直訳すると「木を叩く」ですが、これは「幸運が訪れますように」という意味を持つ言葉です。願掛けとして近くの木製品をコンコンと叩きながら “Knock on Wood” と呟くこともあるそうで、木に宿る精霊に自分の存在を告げると幸運が舞い降りると言われています。 日本でいうと手を合わせて神頼みをするのに近いでしょうか。
家具作りでは木を叩くどころか切ったり削ったりするので精霊さんがどう思っているかはさておきですが、私たちの作る家具がお客様に幸運を運びますように、そして作る側の人間にも幸運が訪れますように。そんな願いを込めて名付けられました。
今回はそんな『Knock on Wood』商品開発の裏話です。
コタツ職人の腕を活かすものづくり
弊社、日美はコタツを主力商品として製造している家具メーカーで、香川県高松市に自社工場を構えています。おかげさまでコタツはご好評をいただいているのですが、注文が秋冬シーズンに集中するため工場の稼働に季節による波があるという課題がありました。
そのため、NOTコタツのブランドとして、無垢材×アイアンの家具『ROUGH&TOUGH』を2015年にスタート。なんだ、もうコタツ以外もやってるじゃないとなりそうなところですが、ROUGH&TOUGHはその名の通り「ラフ」がウリなのです。それに対してコタツ職人の基本は「美しく・正確に・手早く」。現在はコタツにも「ラフ」に見えるものが増えましたが、基本はこちらです。また、メインに扱う素材もROUGH&TOUGHが無垢材と鉄なのに対し、コタツ作りでは突板を多く扱います。
「コタツ作りで培った技を活かして、コタツ以外の魅力ある商品を作りたい。」
実は、これが『Knock on Wood』のスタートでした。
Nichibi Woodworksを代表するコタツ「RUDE」
商品開発を担当し、また自身も生粋の職人である社長の白井は現場の職人たちの技能と設備能力を徹底分析し、何が産み出せるか?を考える日々。弊社の工場は分業スタイルで、加工は加工、塗装は塗装などそれぞれの持ち場があります。個々がコタツ作りで培った技を活かしつつ、それを組み合わせて魅力的な商品を作るために試行錯誤を重ねました。
社長の白井(左)と工場のリーダーを務める多田(右)
なるべく従来の方法や個々のスキルに応じたモノづくり方法の応用(作り手のアイデア)を引き出し、仮試作をしてもらう。過程ではなるべく口を出さず好きにやってもらう。方法は押し付けない。
唯一、表情の出来については妥協せず、互いが納得できるまで付き合う。
なるべく口を出さない。
というのが白井が決めたルールでした。
自分で考え悩み苦しんで新たな技法を産み出してもらう。そうすることで新たな技はその職人のものとなります。
Booker.T Series
ここからは、商品ごとの開発裏話を書いていきます。『Knock on Wood』は2つのシリーズからスタートしましたが、それが「Booker.T」と「MG’s」。音楽好きの方はもうお気づきかもしれませんが、由来はアメリカ南部テネシー州メンフィスにて結成されたソウル・ミュージックグループ「Booker.T&The MG’s」。そのままやんかい!というツッコミはなしでお願いします・・名付け親の白井はロック大好き人間なのです。
アイアンで表現できないカタチを“木”で表現する
「Booker.T」シリーズに共通する「逆V字脚」。まさにここが最もこだわったところです。この脚は一見鉄に見えますが実は木をベースにしています。弊社工場ではアイアンの加工も行っていますが、うちの設備ではこういう形は作れないんですね。アイアンで作れないから木で作ろうと。
「鉄っぽさ」をリアルに表現したい。単なるブラックではつまらない。錆びた風合いを出したい。塗装職人に求める表情を伝え、商品化にあたってどのような方法で見本の表情を出すかを考えました。そして、その職人なりの技法で現在のアンティークブロンズ色が生まれました。この技法はアイアン調の塗装を施したコタツ「GUY」の脚の時に悩んで編み出した立体感ある塗装で社外秘。立体感が出せるか出せないかは個々の職人の感性要素が高い塗装方法です。
突板で木の表情の豊かさを表現したい
Booker.T ダイニングテーブルの天板は無垢材ではなく、突板をフラッシュ構造にしたものを使用しています。 フラッシュ構造とは木で枠を組み両側を板で貼ったものを指し、日美ではこの貼る板に突板=銘木などを薄く削いだものを使用しています。無垢材に比べフラッシュ構造は中が空洞になっているので軽く持ち運びに便利で、テーブルとして使用するには十分な強度があります。木の狂いが抑えられるという利点もあり、日美もコタツ作りではこのフラッシュ構造を主としています。
しかし、です。突板は無垢材と比べると質感では劣ります。「突板でいかに木の表情の豊かさを表現するか」これはKnock on Woodに限らず、日美が追求し続けていることです。今回のBooker.Tでは、コタツ作りで培った突板に木質感を出す技術に加え、天板に溝をつけることで表情を出しています。
どうやって突板に木質感を出しているか?については、ここで語り出すとかなり長くなってしまうので、別の機会に紹介させていただければ・・と思います。
新たな技にも挑戦
Booker.T チェアはこういう見た目にしたいというスケッチを描くのは早かったのですが、どういう構造にして軽量化し強度を出すかには長い時間をかけました。
人の体重が色んな方向にかかり、動かす頻度も多い椅子はそれに対応する強度が必要になります。パーツを大きくすれば強度は上がりますが、重くて使いにくくなってしまいます。
椅子作りにはコタツ作りでは使わない技もあります。実際、試作では「難しい」という職人もいました。しかし、やってみればできる。やらなければできない。それだけのこと。を理解してくれた。できる。できた。失敗じゃない。失敗はやり直せばいい。しかしやらないのは何も起こらないし変わらない。そうやって成長してくれれば本望。と白井は言います。
Booker.T Dining Table|ブッカーT ダイニングテーブル
サイズ:W140~160cm
価格:54,000~57,500円(税抜)
Booker.T Chair Bronze|ブッカーT チェア ブロンズ
価格:33,000円(税抜)
Booker.T Chair Oak|ブッカーT チェア オーク
価格:33,000円(税抜)
Booker.T Chair Bench|ブッカーT ベンチ
サイズ:W140cm
価格:40,000円(税抜)
MG’s Series
イメージは鉄板
商品企画を担当する白井の中では前々から鉄板を天板にしたテーブルを作りたいという思いがありました。でも鉄板にするとやたら重くコストも半端なく高い。そこで採用したのがメラミンという素材です。
メラミンは水気や熱、傷や変色に強いという特長があり、小さなお子さんのいるご家庭や気兼ねなくテーブルを使いたい方にも扱いやすいと思います。
MG’s ダイニングテーブルの天板。水に濡れても大丈夫!
さて、そんなメラミンを使ってテーブルを作ることにしたわけですが、メラミン化粧板自体の厚さは1mmにも満たず脚を取り付けることもできないので、ベースとなる素材にメラミン化粧板を貼り付けて使います。元のイメージが鉄板なので薄く見える形に。1枚のテーブル天板として違和感なく見せるために試行錯誤を重ねました。
なんでもない椅子を作ろうと思った
MG’s チェアのテーマはずばり、
「シンプルで懐かしさを感じるなんでもないデザイン」
これといった特徴はない。
これじゃないといけないってことはないかもしれない。
でも使いやすくてついつい選んでしまう。
そんな椅子を作れたら。
ダイニングチェアとしての座り心地と背もたれの安心感は損なわず、加工工程数や作りやすさを考えながら必要なものだけ、余計なコストをかけないことを重視してデザインしたチェアです。
フレームにはオークの無垢材を使用。色はライトブラウンに塗装し、力強いオークの木目が際立つ仕上がりになりました。
張地はウォッシュ加工を施しアタリを出した国産の8号帆布。シンプルだからこそ、素材の質感にはこだわっています。
MG’s Dining Table|エムジーズ ダイニングテーブル
サイズ:W120~160cm
価格:51,000~65,500円(税抜)
MG’s Chair|エムジーズ チェア
価格:29,000円(税抜)
Knock on Woodの挑戦は始まったばかり。
これからどんな技が生まれ、どんな家具が出来上がるか、見守っていただければ幸いです。
さぁ、みんなに “Knock on Wood!!”